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その3 第九話 初デートとお弁当

Author: 彼方
last update Last Updated: 2025-08-15 11:00:00

28.

第九話 初デートとお弁当

 急な事だが俺はあやのさんとデートすることになった。それも、今から。

 約束はすぐに取付けて即日実行が契約獲得の基本だから。営業マンの癖がこんな所で役立ってしまった。

「どうする? 何着て行こう」

「焦っても仕方ないよ、そんなに服なんか持ってないんだし。いつも着てるやつ着るしかないじゃん」

「いつも何着てたっけ」

「ワイシャツ」

「それは仕事の服だから。あー、もう分かんねえ。ポロシャツでいいや」

「いいんじゃない? 水玉でかわいいし」

 あまり服の選択肢を持たない俺は紺色ベースの小さな水玉模様になってるポロシャツを着た。美咲もいいと言ってるしコレで良しとする。

────

──

「じゃ、頑張ってねぇ。美咲は美味しいご飯作るお義姉さんが欲しいなあー」

「たく、自分で作るという考えは無いのかよ」

「出来るとしてもやりたくないもーん。お料理ってめんどくさい。ぬれるし、あついし」

「まぁな、それはわかるよ。だから料理してくれる人にはホント感謝だよな。……ま、とりあえず行って来るわ。美咲…… ありがとな」

「礼には及ばないよ。主に自分の食欲のためにやったことだしぃ。赤いお姉さんも人間的には素敵だと思うけどネ」

◆◇◆◇

 一方、髙橋彩乃は慌てていた。

「あ~~~どうしよ〜〜。大変なことになっちゃったな。マキにはなんて言おう。いや、それどころじゃない。もう今日イヌイさんと2人きりでデデ、デートしちゃうんだァ」

 お昼を一緒に食べるだけ。2時には子供が学校から帰ってくるからそれまでの2時間弱だけだけど、やっぱり初めては緊張する。

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